Monday, February 22, 2016

渋谷からモンゴルへ続く一本の道 − 写真家・山内悠が見た完璧な世界とは

こんにちは。TRiPORTライターの赤崎えいかです。

日本に住んでいると当たり前になっていることが、たくさんあります。コンビニに行けば24時間食べものが手に入り、電車や車、飛行機に乗れば、すぐ遠くへ行くことができます。インターネットの中や主要都市では"最先端"の情報や物が溢れかえっており、気づくとその情報に踊らされ、自分が見えなくなってしまっていることもあるのではないでしょうか?

そういった生活が本当に正しいものなのか...。そう疑問を持っていた写真家・山内悠さんはモンゴルで"最先端"のライフスタイルを感じたそうです。

ーどうしてモンゴルへ行くことになったのでしょうか?

ご縁があって、長野の八ヶ岳の近くに土地を貰ったんです。標高も高くて寒い場所で、そこに建物を建てるのは大変だな、と考えていたところ「モンゴルのゲルは安くて寒さにも強い」という話を聞き、それなら旅がてら買いに行こうと思い立ったのがきっかけです。正直モンゴルのイメージといえば、ゲルと馬、遊牧民がいるくらいで、全く未知の世界でしたね。

ーモンゴルといっても結構広いですよね。モンゴルのどこに行かれたのでしょうか?

北のツァータン族が住むあたりです。そこに決めたのは、紹介してもらったモンゴル人の写真家の話を聞いたことがきっかけです。彼が自分の撮った写真を見せてくれながらモンゴルは東西南北、4つの別世界があるということを説明してくれました。東は、360度の大草原が地平線まで広がっていて、ゲルに住み、羊や馬を牧畜している。西はアルタイ山脈の周辺で鷹をハンティングに使う、カザフ族の世界。南はゴビ砂漠でラクダと共に暮らす民族がいて、北には、ロシアとの国境近くにトナカイと共に暮らすツァータン族がいる、と。

しかし、彼の写真の中には北のツァータン族の写真がなかったんです。その理由を聞いたら「彼らに会うためには、馬に乗って山を越えていかなければならない。山の中の彼らには簡単には会えないため、自分もまだ会ったことがない」と言われました。それを聞いたらどうしても会いに行きたくなって、彼と片道2週間かけてツァータン族を探しに行った。

道なんてないし、迷って遊牧民に道を聞くと「あの山の向こう」と言われ、山を越えてもそこには地平線までの大草原...、なんてことが何度もありました(笑)
渋谷のヒカリエから原始時代へ


ーツァータン族には会えましたか?

それこそ分厚い本が書けてしまうぐらいの行程を経て、なんとか会うことができた。ツァータン族はモンゴルで80人ぐらい、ロシアと合わせても数百人だけなんです。絶滅していく民族の世界なので、本当に会えたのが奇跡のようなこと。辿り着いたとき「道が繋がった」と強く感じました。

ー道が繋がったとは?

実はモンゴルに行く直前まで、渋谷のヒカリエで写真展をしていました。場所柄もあって大学生にも多く見てもらえたのだけど、彼らと話しをすると「旅に行きたいけど、とりあえず就職を考えないと」とか「役者になりたいけど、安定もしたい」「自分が何者になりたいか、わからない」といった子が多かったんです。

渋谷の街を客観的に見ると、情報量が多すぎると感じます。「自分が何者で、どこへ向かっているのか? そして何が本当に正しいのか?」ということが、情報にかき消されてはっきり見えなくなってしまう。そんなことを感じながらモンゴルに行っていたんです。

首都ウランバートルを一歩出れば、馬、羊、ゲルといった原始的な生活になる。道も途中で途切れ、アスファルトもなくなる。さらにツァータン族のところへ行けば貨幣経済ですらなく、原始時代の真っ只中の生活になる。しかし、それはこの地球で人類がもともと何千年も続けてきた生活なんです。身近にある自然を活用し、家畜を育て、食べて生きていく。

渋谷という資本主義最先端といえる街から、何千年も変わらないであろう生活をする彼らに会うことで、一気に時代をさかのぼったようになり、僕の中で一本の道が繋がったんです。進化というか歩みというか。
モンゴルで見た最先端の生き方


ー特に印象に残った部分はありますか?

原始的な生活を送るツァータン族から、ウランバートルに戻るまでも多くの遊牧民と食事をし、ゲルに泊まらせてもらいました。遊牧民のゲルにはソーラーパネルやパラボナアンテナが備え付けられ、馬に乗りながら携帯電話やスマートフォンを使っている。そんな遊牧民のおじさんが「うちには牛と羊が100頭、馬が50頭いる。だけど、一家族1年食べていくには羊7頭、牛と馬一頭づつで生きていける」と言うわけです。

お金が欲しければ家畜や毛皮を売れる、情報も得ることができる、ゲルの中で韓流ドラマだって見れる。情報を得て街に行きたい人は遊牧民を止めて街に働きに行く。彼らは全部を知っていて、自分で生活を選んでいくんです。「ドルの為替や、資本経済がどうなろうと自分には関係無い。遊牧民にはいつでも戻れる」と。

プリウスに乗っていても、オイルがなくなれば馬に乗ればいい。食べるものだって自分で育てていくことができる。地球で生きていける環境や手段を把握し構築しながら、街での生活もできる。この意識の在り方、このライフスタイルこそが実は最先端の生き方なのではないかと衝撃を受けたのです。

モンゴルには、自然と動物、そして人間が完璧に調和した世界が広がっています。僕は写真家なので写真を撮るわけですけど、まるで緻密に設定されたスタジオ写真のようで、もう嘘っぽくすら見えてしまうほどなんですよね。まるでどこかの別の惑星に降り立ったかのような世界が、モンゴルでは普通に存在していました。

先進国では自然をコントロールしようと"人間対自然"という形で様々な環境問題を作り上げていますが、まずはモンゴルの人たちのように「自分たちも自然の一部である」と意識しないと解決できないと思います。必要なものは全て地球に備わっていて、絶対に生きることができるのに、それを信じきれないから不自然な文明ができてしまったということをモンゴルにいって痛感しました。

モンゴルは飛行機でたったの4時間半で行けてしまうすぐ近くの国です。完璧な世界がすぐ近くにあることをみんなにも知って欲しいですね。

[山内悠の公式サイトはこちら]

聞き手・構成:赤崎えいか

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