Friday, September 20, 2013

草原の国、モンゴルが第二のサウジアラビアになる日

「草原に浮かんだ蜃気楼(しんきろう)」。10年以上前、モンゴルを仕事で訪れた時、郊外から首都ウランバートルの全景を眺めた感想だ。

 浅い緑色の草原のかなたの盆地に、初夏のかげろうで揺らめく建物は本当の街なのか、幻覚なのかわからないほどに神秘的だった。13世紀にチンギスハンが築いた人類史上空前の大帝国がついえてから数世紀を経ても、帝国の片りんが残っているようにも感じた。

今回、訪れたウランバートルは「草原の蜃気楼」からバブルに沸く近代都市にすっかり姿を変えていた。20階建て以上のビルが立ち並び、郊外にはまばゆいばかりの豪華なマンションが続々、建ち上がっていた。

 道は朝夕のラッシュ時には車で埋め尽くされるが、走っているのは日本車、韓国車にドイツ車や時折、イタリア製の超高級車も交じる。いったいこの国に何が起きているのか。

 答えは首都ではみつからない。開発が始まったばかりのオユ・トルゴイ、タバン・トルゴイなど首都から数百キロ以上離れた鉱山がもたらす富がモンゴルを世界トップクラスの高成長国に変えつつあるからだ。

 今、世界をみれば東アフリカや北極圏などかつて資源地帯とはみなされていなかった場所が開発フロンティアとなり、世界から投資を集めている。

■資源のデパート

 モンゴルもそのひとつだが、大きな特徴は石油、天然ガス、銅など単一の鉱物に依存するモノカルチャー型資源国ではなく、銅、石炭、鉄鉱石、金、ウラン、レアアースなど多様な資源を持つ「資源のデパート」であることだ。

 しかも単一の鉱山の埋蔵量が銅、石炭、金などでは世界最大級という資源開発にとっては好都合な条件もある。

 だが、モンゴルには資源国としては致命的な弱点がある。内陸国、しかもロシアと中国というふたつの国にしか接していないという点だ。

 重量物である鉱物資源は海上輸送が一般的で、海岸から離れている場合は港まで鉄道で運ぶ。その輸送ルートが確保できなければ資源は存在していても、何ももたらさない。港も持たず、経由する隣国がスーパーパワーのロシア、中国ではモンゴルの資源が日の目を見るのは難しかった。

状況が変わったのは今世紀に入ってからの世界的な資源需要の高まりと価格の高騰だ。開発、輸送にコストをかけても事業として採算が合うようになり、何より隣国の中国がモンゴルの資源を必要とするようになった。

 1950年代に油田開発が本格化したサウジアラビアは20年足らずで世界で最も豊かな国のひとつになった。ラクダの背に揺られていた遊牧民の末裔(まつえい)は高級車を運転し、プライベートジェットで世界を旅する者も現れた。

 高層ビルに巨大なモスクやショッピングモールなどが並ぶ首都リヤドはまさに「砂漠の蜃気楼」のような近代都市に変わった。資源にはそうした変化を起こす魔力がある。

 モンゴルもまたこれから20年以内に私たちの想像を超えた大発展を遂げる可能性があるだろう。よりモンゴルに類似した、新しい例では膨大な天然ガス埋蔵を使って世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国になったサウジアラビアの隣国、カタールがある。

 90年代後半、後発国としてLNG輸出国になったカタールは日本はじめアジア需要を前提にした強気の輸出戦略で巨大なLNGプラントを続々、建設、今や年間7700万トンものLNG輸出能力を持つ世界最大のLNG大国になった。ひとりあたり国内総生産(GDP)は10万ドルに達する。

 モンゴルはまずは隣国、中国が必要とする銅、金、石炭を柱に多様な鉱物の輸出国になるだろう。単一の鉱物の市況に左右されない点が強みとなる。

■ウラン埋蔵量はトップクラス

なかでも注目すべきは原子力発電の燃料となるウラン。多くの専門家はモンゴルは世界トップクラスのウラン鉱石の埋蔵があるとみている。先進国ではウラン需要の先行きは読みにくいが、新興国、途上国では今後、原発は確実に拡大する。その燃料供給でもモンゴルは大きな力を発揮する可能性がある。

 モンゴルは今なお人口290万人に対し、羊、牛などの家畜の数が1100万頭を超える遊牧国家であり、草原の移動式住居ゲル(パオともいう)に常住したり、夏場の別荘として活用する人も多い。

20年後、この国の経済がどう発展し、人々の暮らしはどう変わっているのか--。チンギスハンの末裔たちの挑戦をみつめていきたい。

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