Monday, September 23, 2013

世界の発展をモンゴルへ---MCSグループ会長ジャンバルジャムツ・オドジャルガルの挑戦

の投資家から注目されるモンゴルMCSグループ会長のジャンバルジャムツ・オドジャルガル氏が登場します。今年3月には安倍首相も訪れて関係強化を図っている資源大国モンゴル。にわかに注目を浴びたこの国で奮闘するオドジャルガル氏の成功の秘訣をNHK取材班への取材をもとに再構成してお届けします。

なお、9月5日(木)発売の「モーニング」および「Dモーニング」では『会長 島耕作』の弘兼憲史氏による漫画版『島耕作のアジア立志伝』が掲載されます。そちらもお楽しみに!
中国は近いうちに必ず石炭輸入国になる

12.3%(2012年推定値)---世界第3位のGDP成長率を誇るモンゴル。ロシア、中国という大国に翻弄され続けてきたこの国が今、驚異的なペースで経済成長を続けている。その起爆剤となっているのが、莫大な埋蔵量を誇るエネルギー資源。とくに、埋蔵量約60億トンを誇るタバントルゴイ炭鉱に代表される石炭が、モンゴル経済の急成長を牽引している。

この石炭を武器に世界経済の第一線に乗り込んだ実業家がいる。MCS(モンゴル・コンサルティング・サービス)グループ会長のジャンバルジャムツ・オドジャルガル(48歳)だ。

オドジャルガルが石炭ビジネスに乗り出したのは、'05年。モンゴルにはゴビ砂漠にあるタバントルゴイ炭鉱など、すでに豊富な埋蔵量の炭鉱が確認されていたが、国内外の投資家は「採掘しても近隣に買ってくれる国がない」と開発に消極的だった。しかも、隣国の中国は自国内に多数の炭鉱を抱える石炭輸出国。いくら地理的に近くても商売にならないと誰もが思っていた。しかし、オドジャルガルが見据える先は違っていた。

「中国は近いうちに必ず石炭輸入国になると考えていました」

当時はちょうど、'08年の北京オリンピック、'10年の上海万博を控えていた。オドジャルガルは、いずれ中国の石炭消費量が急増すると信じて賭けに出た。自社開発のタバントルゴイ炭鉱で採掘した石炭の輸出先を中国だけに絞り、安定的に供給する事をセールスポイントとして強気の交渉に臨んだのだ。

「中国の企業は少しでも利益を上げるため石炭を安く買おうとします。交渉は簡単ではありませんでした」

その強気が功を奏して、石炭価格をこれまでの倍の額に押し上げることに成功。そして1年後、香港市場での上場に漕ぎつけ、世界の投資家にタバントルゴイ炭鉱の名を知らしめた。そして、MCSグループ傘下の石炭ビジネス会社は、世界最先端の技術と大規模なプロジェクトが評価され、6億5,000万ドルもの投資資金が集中。オドジャルガルは、わずか1年でモンゴルの石炭ビジネスを世界水準にまで引き上げてみせた。

昨年のモンゴル全体の石炭輸出量は2050万トン。この莫大な量の石炭がGDP成長率12.3%という数字を支えているのだ。
もしトイレの場所が間違っていたら・・・

今でこそ820億円の年商の約半分を石炭ビジネスが占めるMCSだが、モンゴル・コンサルティング・サービスという社名が示す通り、当初はオドジャルガルが友人と二人だけで始めた小さなコンサルティング会社だった。

初仕事は、世界銀行から委託を受けたモンゴル農業の実態調査。わずか5,000ドルの小さな仕事だった。それでも、記念すべき初仕事だ。オドジャルガルは張り切っていたが、困った事になった。世界銀行のスタッフが事務所に打ち合わせに来るというのだ。

資金のなかったオドジャルガルは幼稚園の片隅に事務所を間借りしていた。あまりにみすぼらしい事務所。オドジャルガルは知人に頼んで、何とか格好のつくニセの事務所を借りた。おかげで打ち合わせは無事に終わって、すぐに調査にかかることになった。しかし、帰り際に世界銀行のスタッフが発した一言がオドジャルガルを凍りつかせた。

「ところで、トイレをお借りできませんか?」

ここはオドジャルガルも初めて入った建物だ。トイレの場所など知るわけがない。

「え~と、トイレはですね」

ええい、ままよ。適当に案内したら、うまいことそこにトイレがあった。己の運のよさに感謝した。

オドジャルガルは笑って言う。「あれは打ち合わせよりも緊張した場面でした。もしトイレの場所が間違っていて、事務所がニセものだとバレていたら・・・」オドジャルガルの現在も、もしかしたらモンゴルの発展も今とは違ったものになっていたかもしれない。

MCSを設立したのは、'93年。その前年の'92年は、旧ソビエト軍が完全に撤退し、モンゴルが社会主義体制と決別した年だ。当時、オドジャルガルはスイスにいた。旧ソビエト・キエフの大学で電気工学を学んだ彼は、スイスにある発電所建設を請け負う民間企業に派遣されていた。そこでは、国の根幹をなすエネルギー戦略を民間企業が担っていた。「ビジネスの力で国が動く」姿を目の当たりにしたオドジャルガルは、ビジネスのおもしろさと自由を知った。

MCSを設立してからは、民主主義の道を歩き始めたモンゴルで懸命に働いた。コンサルティングを手始めに、オフィス家具やコンピューターの販売を手掛けた。次に印刷会社を設立し、さらには国営のウオツカ企業を買収。コカコーラやタイガービールの製造権などを手にしたMCSは巨大な総合企業へと進化を遂げた

MCSの社是は「世界の発展をモンゴルに」というものだ。そこには、民間企業の力でモンゴルを国際的な舞台に立たせたいというオドジャルガルの熱い思いが込められている。
誰も出来ない事をやってみせる

中国に狙いを定めた石炭ビジネスでMCSを発展させたオドジャルガルだったが、ここへ来て新たに乗り越えるべき壁が現れた。中国での石炭価格の急下落---。未曾有の発展を続けた中国の経済成長が鈍化し、石炭相場が冷え込んできたのだ。縮小する可能性のある中国市場にだけ頼るわけにはいかない。そう考えたオドジャルガルは、第三隣国と呼ばれる日本や韓国などに目を向けた。

なかでも年間7000万~8000万トンのコークス炭を使う日本はもっとも有望な市場だ。しかし、石炭は空路で運べるものではない。海のないモンゴルがどうやって日本まで石炭を運ぶというのか---。どうしても、中国、ロシアの鉄路を使うしかないのだ。モンゴル政府はロシアルート、中国ルートのどちらを優先するかで紛糾した。鉄道を管轄する事務次官が言う。

「我々は後ろに巨大な熊が、前には巨大な龍がいる2つの大国(ロシアと中国)に挟まれています。ロシア政府とは中国ルートと同じ価格設定で運賃を下げられないか交渉していますが、なかなかうまくいきません。中国からは、タバントルゴイ炭鉱までの鉄道を中国と同じ幅のレールで敷くようにと要求されています」

中国とモンゴルとでは鉄道のレール幅が違うため、国境で荷を積み替える手間がかかる。しかし、中国と同じレール幅で鉄道を敷くのは防衛上の観点などからも懸念がある。どちらのルートで石炭を運ぶべきなのか、モンゴルの国会では国を二分する議論が沸き起こった。

国がさまざまな鉄道敷設計画を提案しては、廃止し、新たな案を提案しては修正し、と変更を繰り返す中、オドジャルガル率いるMCSは、独自の調査に基づいて費用負担の少ない中国ルートを優先する案を調査・検討していた。オドジャルガルがその思いを語る。

「我が社が率先して実現すれば国や他の企業の見本になれます。誰も出来ない事をやってみせることが、モンゴルの自立を後押しすることになるのだと信じています」

日本との経済連携協定(EPA)も今年度中の締結が約束された今、モンゴルの経済成長に不可欠な石炭をいかに世界へ運ぶか---オドジャルガルが担う課題は重い。「世界の発展をモンゴルへ」と、自ら掲げた社是のもと、若き実業家の挑戦は続く。

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