Friday, March 1, 2013

余録:「モンゴルフィエール」か「シャリエール」か。…

モンゴルフィエール」か「シャリエール」か。太古(たいこ)からの人類の夢「空に上がる」を実現するにはどっちがいいか。前者は熱気球、後者は水素気球。発明者にちなむ命名だが、いざ人を乗せる段になってフランス学士院で論議となった▲結局、学士院が重視したのは飛行性能より安全性だった。水素ガスは爆発しやすいので、熱気球がいいと判断したのだ。学士院は熱気球を開発したモンゴルフィエ兄弟に人が乗れる熱気球の製作を依頼し、資金援助をした▲こうして人類が初めて空を飛ぶ夢をかなえたのは1783年11月21日、直径16メートルの2人乗り熱気球によるパリ上空の25分間の飛行だった。燃料はワラに羊毛をまぜたもので、もうもうたる煙に上昇力があると思われたのだ。水素気球の有人初飛行はその10日後となる▲人類があこがれた飛行の初心ともいうべき「安全」である。だが、エジプトの古代遺跡ルクソールでの熱気球の爆発・炎上事故は日本人4人を含む観光客19人の生命を奪った。テレビに繰り返し流れたのは、気球の墜落のさまを追った胸のつぶれるような映像だった▲人生の骨休めの旅で、眼下に広がる広大な史跡を眺められると聞けば誰しも心が動こう。だが当の熱気球を運航する業者は過去に何度も事故を起こしていたという。またムバラク政権崩壊後の航空行政の混乱や観光客減少による安全のタガの緩みを指摘する声も聞く▲天上の眺望(ちょうぼう)への人々のあこがれを一瞬でのみ込んだ地上の怠慢や錯誤の闇がうらめしい。起こった事故の原因は背景まで徹底的に調べ上げ、空の安全を高めていくのが人類の初飛行以来の約束である。

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