Friday, March 1, 2013

モンゴル資源活況の陰 広がる貧富格差、社会不安も増大

豊富な鉱物資源を武器に経済成長路線をひた走るモンゴルが、格差問題に揺れている。資源ブームを当て込んで群がる外資によって都市部の景観が様変わりする一方で、鉱山作業員など低賃金労働者の生活水準が上向く気配はない。成長の恩恵が社会全体に行き渡っていないとの不満が、国民の間で日増しに高まりつつある。

モンゴルの首都、ウランバートルの周辺に広がる大草原地帯の炭鉱で働くサパールさん(23)は、同僚がシャベルですくって容器に詰めた低品質の石炭の運搬を担当する。1日の労働時間は12時間で休日はない。石炭で真っ黒になったシャツを着たサパールさんは「冬の寒い日は地下にいる方が暖かい」と、白い歯をみせて笑う。それから「現場では危険なことも多いけど、ほかに仕事がないからね」と、ため息をついた。

◆ブランド店庶民無縁

金、銅、コークス用炭などの鉱山開発ブームに沸き返るモンゴルは、2011年に17.3%の経済成長を達成した。世界2位の鉱山会社で同国に最も多額の投資を行っている英豪系のリオ・ティントをはじめ、米ピーボディ・エナジー、三井物産といった海外企業各社は、資源輸出の拡大を通じた高成長モデルを今後も維持したい考えだ。

+天然資源がもたらした好景気に便乗する形で、他の産業分野でも外資によるモンゴル進出が相次いでいる。

今やウランバートルの中心部には仏LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンなどの高級小売り各社が出店。4500ドル(約41万6000円)のハンドバッグが店頭に並ぶようになった。このほか独高級車メーカー、BMWのディーラーや、すしバー、1泊3500ドルのスイートルームを備えるホテルもお目見えしたが、こうした店舗や施設を利用できるのはごく一握りの富裕層だけだ。

人口300万人のモンゴルでは、1日1.25ドルでの生活を強いられる貧困層が国民の2割を占める。職を求める人々が押し寄せるウランバートルには全人口の半分近くが暮らすが、そのうちの約半数は遊牧民の間に伝わる「ゲル」と呼ばれる移動式住居に住んでいる。

ゲルに水道は通っておらず電気が使えないケースもある。暖房や調理に必要な熱源は、ストーブで石炭を燃やして得る。冒頭のサパールさんが採掘した石炭は、これらのゲルで消費されている。

ウランバートルのゲルに住み、司書として生計を立てるガンバータルさん(50)は「モンゴル経済はここ数年で急速に拡大したが、潤っているのは大企業のオーナーや政治家ばかりだ。世間一般の人々の暮らし向きには何の影響も及んでいない」と話す。

◆非公式失業率は9%

爆発的な経済成長を遂げたにもかかわらず、モンゴルの失業率は過去10年間でほとんど変わっていない。政府発表による12年3月時点の失業率は4.4%だが、世界銀行が非公式の調査を基に算出し、同年6月に発表した11年末時点の失業率は9%だった。

また10年から11年にかけて貧困層の割合は40%から30%に縮小したが、国際通貨基金(IMF)はこれを政府による補助金支給の効果だとみている。

プライベートエクイティ(PE、未公開株)投資会社、オリゴ・パートナーズMGLの共同出資者、デール・チョイ氏(ウランバートル在勤)は、モンゴル国民の大半が大型鉱山事業に不満を抱いていると指摘。「地元に直接的な恩恵がないのが問題だ。国全体としては利益を得ており、税収も増えているが、好景気の実感が得られない国民はいらだちを募らせている」との見方を示した。

社会不安の高まりを懸念するモンゴル政府は、国内への利益配分の拡大を目指し、鉱山事業をめぐる海外企業との交渉の仕切り直しに動いている。エルベグドルジ大統領は2月初め、リオ・ティントが進める国内のオユ・トルゴイ銅鉱床での開発計画に関して、政府の統制を強化する必要があると明言。世界最大の埋蔵量を誇る同鉱床の権益に関して、リオ側と真っ向から対立する構えをみせている。(ブルームバーグ Yuriy Humber)

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