Saturday, January 5, 2013

聖地巡礼<4> 日高市 高麗神社

日高市の高麗(こま)神社がにぎわうのは、初詣のシーズンだけではない。毎年四月に「韓流スター」を迎えるイベントが開かれ、五百~六百人の女性ファンでごった返す。「日本に朝鮮半島に縁が深い場所があるとは知らなかった」。訪れたスターたちはこうした思いを込めたメッセージを贈り、ファンとの交流を楽しむ。

「韓流時代劇王」と称されるチェ・スジョンさん、日韓合作ドラマ「赤と黒」で主演したキム・ナムギルさん、次世代スターとして注目のチョン・イルさん…。これまでに訪れたのは、韓流ドラマのファンにとってはそうそうたる顔ぶれだ。

イベントは、NPO法人「日韓文化交流会」の東京事務局が企画し、五年前に始まった。神社宮司の高麗文康さん(46)は「『日本と朝鮮半島の交流を』との思いは同じだった」と、受け入れたきっかけを話す。

高麗神社の由来は奈良時代にさかのぼる。七一六年、現在の日高市や鶴ケ島市を中心に高麗郡が設置され、朝鮮半島の高句麗(こうくり)から渡来してきた人たちが移り住んだ。郡の首長に高麗王若光(こまのこきしじゃっこう)が就き、没後にその御霊をまつるために高麗神社が建立された、と伝えられる。代々の宮司は若光の子孫が務め、高麗文康さんは六十代目だ。

その歴史から、高麗神社は日韓交流の拠点になってきた。朝鮮半島で作られた磁器「白磁」の展覧会や武芸家の演武などを開き、多彩な韓国文化を紹介。神社を訪れたスターには、キムチや高麗人参(こうらいにんじん)、地場産野菜を使った地元B級グルメ「高麗(こま)鍋」などの特産品を振る舞っている。

高麗さんは「(高句麗からの渡来人たちが)生まれた国と同じ名の土地を日本の中にもらい、徐々に根付いて日本人となっていった。神社や特産品を通じてそのドラマチックな歴史を感じてもらえれば」との願いを込める。

昨年夏から日韓は政治的にギクシャクし、文化交流にも影響が出た。ただ、高麗さんは「日韓が本格的に『顔の見える交流』を始めたのは、二〇〇二年の日韓サッカーW杯のころ。お互いの良い面だけでなく、悪い面も見えるようになった」と現状をみている。

だからこそ、文化交流を深める意義はより強まったという。「ご近所付き合いでも家族同士でも、悪い面を知りそれを乗り越えて関係を深める。日韓が真の隣人になるために、必要な過程だと思う」と考える。

三年後には高麗郡設置千三百年を迎える。高麗さんは「高句麗は中国やモンゴルとも関係が深かった。神社は日韓だけでなく、東アジアの文化交流拠点になりえると思う。当時は国の境界を越えて人間は行動していた。そうした精神を発信する場所になりたい」と意気込んでいる。 

(羽物一隆)

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